難病法とは

【難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)とは】

【知っていてほしい、難病法成立までの当事者の闘い】

難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)の成立以前は難病対策に法律はありませんでした。いわゆる国の事業として特定疾患治療研究事業があり、難病の治療研究と医療費助成が行われていましたが、国の財政難を背景に必要量の事業費が予算化されず、医療費助成に関してはその不足分を都道府県が担うという事態が長く続き、批判も起きていました。将来にわたって継続的に難病対策を行っていくためには法律化が必要でしたが、その審議が始まったのは第13回難病対策委員会で、2011年9月13日、東日本大震災の半年後の事でした。

難病対策委員会で、医療費助成の対象(当時は「特定疾患」として56疾患のみが医療費の助成対象でした)を国の財政が逼迫している中増やす方法として出された案が「対象疾患の入れ替え」でした。特定疾患の中には治療の進歩により社会参加が可能となってきたものもあり、そのような疾患を外して代わりにそれまで対象とならなかった希少疾患を入れてはどうかというものでした。この議論を知った当事者団体は危機感を強めました。それまで公費負担があったからこそ受けられていた治療が、通常の治療費と同様に健康保険での請求になれば、治療継続が難しくなる患者が多く出ることが必至だったからです。

各疾患団体は難病対策委員会を傍聴し、互いに情報交換をするようになりました。治療の中断は患者の社会参加を困難とし、生活の質の低下や生命が危険に晒されることを意味します。疾患の入れ替えは「命の椅子取りゲーム」だと指摘する患者団体もあり、多くの希少・難治性の疾患が治療研究や医療費助成の対象となるよう強く求めていきました。その結果、同年12月1日の第18回難病対策委員会に「今後の難病対策の検討に当たって(中間的な整理)」が出され、難病は「国民の誰もが発症しうる可能性がある」ものであり、「希少・難治性疾患の患者・家族を我が国の社会が包含し、支援していくことが、これからの成熟した我が国の社会にとってふさわしい」とされました。これにより、「希少・難治性疾患の患者を、公平に対策の対象」とされることになり、対象疾患の拡大が図られることになりました。

その後、難病対策委員会での審議がすすみ、また厚生労働省主催の意見交換会で当事者団体が意見を伝える場も設けられ、2013年1月25日第29回難病対策委員会において「難病対策の改革について(提言)」がだされ、改革の基本理念として「難病の治療研究を進め、疾患の克服を目指すとともに、難病患者の社会 参加を支援し、難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会 の実現を目指す」と明記されたのです。

しかし、その後国の財政難を背景に厳しい審議が行われていきます。新たな法律は治療研究だけでなく「長期の療養による医療費の経済的な負担が大きい患者を支援するという福祉的な目的」を持つとされた一方で、対象疾患を判断する物差しとして希少性という人数の枠が設けられることになり、「対象患者は、対象疾患に罹患している者のうち、症状の程度が重症度分類等で一定以上等であり、日常生活又は社会生活に支障がある者」とされ、医療費助成対象は様々なふるいにかけられることになりました。そして、2013年10月18日第33回難病対策委員会資料「医療費助成の仕組みの構築について」の中で「新たな医療費助成の制度案(たたき台)」として自己負担限度額が提示されました。それは高齢者の高額療養費制度を参考とされたもので、長期にわたり高額な治療費を必要とする患者が治療の継続を諦めかねない厳しい金額設定でした。この内容に対し、多くの患者団体や個人が反対の声を上げていきます。「このままではみんな死んでしまう!」そんな悲痛な声も上がりました。患者自らが記者会見を開き、新聞やテレビといったメディアに患者の現状を訴えました。そのような当事者活動に反応して複数の政党が患者団体にヒアリングを行いました。そして、医療費助成の制度案が出されて僅か2か月後、12月13日第33回難病対策委員会で、当初案より大幅に低い自己負担限度額となる「難病に係る新たな医療費助成の制度案」が出されました(現行の医療費助成の内容)。当事者の願いが叶った瞬間でした。

(参考・引用:厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_127746.html

【難病の患者に対する医療等に関する法律】

こうして「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」が2014年5月23日に成立し2015年1月1日に施行されました。対象疾患は、それまでの特定疾患治療研究事業での55疾患から110疾患へと大幅に拡大されました。その後対象疾患については新たにできた指定難病検討委員会にて審議が継続的に行われていて、現在333疾患が認定されています(2021年4月1日現在)。

この法律によって、医療費の公費負担が法制化されただけでなく、国は難病の発症の機構、診断及び治療方法に関する調査及び研究を推進し、また療養生活環境整備事業も行われることになりました。それまでなかった「療養生活環境整備事業」が加わったことで、この法律により難病患者の生活を支える総合的な施策推進が目指されることになったのです。

(参考・引用:難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/4141